雨戸をしめきった部屋では熟れきった果実の匂いがあまく満ちている。畳の上で脚を投げ出し寝転ぶなんて人前じゃとても出来ないけれどここなら大丈夫。ガラスの向こうではまだ蕾のバラが柔らかい雨に打たれている。
カンベエ様が家に線香を上げに来たのは30分くらい前だったかしら。反芻する。今右手で触れているこの座布団にお座りになった。キララはこの機会を与えてくれた亡き祖父に感謝した。大きな家の中は本当に静か。雨音だって耳に優しい。
あのお方を、私はよく知らない。お爺さまのお知り合いだということぐらいしか、あとは名前、島田カンベエ様、カンベエとはどんな字を書くのかしら、ご結婚は?ご子息は?お住まいは?私はあの方にどう見えているかしら?・・・
キララは香気に酔っていた。仏壇の果物、お盆に上げたっきりになっている。ちょっと熟れすぎかもしれない。
窓の外100メートルではカツシロウがこの家に向かって歩いて来ていた。花屋さんでふとかわいらしい花を見つけたので恥ずかしい思いをしながら買ったのはくしくも小さなピンクのバラの花。キララの家のバラはなかなか育たなくて、彼女が一生懸命がんばってやっと蕾まで育てたのだった。だから今キララに持っていったらいやみだと思われるかもね。彼に悪気はないのだけれど。
キララはいまだ仏間でメロンの甘い夢の中。